音楽を通して知的・精神障害者や痴ほう性のお年寄りの心をケアし、体の機能回復を促す音楽療法が注目され、その担い手となる音楽療法士が全国に広がりつつある。
兵庫県では1999年度から独自の養成講座をスタートさせ、今年2月には県公認の音楽療法士27人が誕生した。
音楽療法士が社会で活躍するためには何が必要か−兵庫の現場からリポートする。
静寂な山あいの病院に、心地よいハンドベルの音色が流れる。
曲目はドボルザークの「家路」。
今、まさに音楽療法のセッション(実践)が行われていた。「皆さん、とてもお上手です」。
音楽療法士・森本恵美子さんの声に、演奏者たちは弾むような笑顔を見せた。
神戸市北区の向陽病院では、30年以上も前から山口陽雄(ひでお)名誉院長(当時は
院長)の方針で精神科の中に音楽療法を導入。
現在、入院患者を対象に、器楽、コーラス、ハンドベル、琴の集団音楽活動を行っている。
森本さんは82年8月から常勤で音楽療法を担当。
97年に全日本音楽療法連盟(現在は日本音楽療法学会)からの認定を受けた。
「音楽には閉ざされていた心の扉を開く力があることを実感する」と、音楽療法の有効性を強調する。
また長年、音楽療法に携わってきた山口名誉院長は「社会的適応の訓練として音楽活動は最適。薬物治療と音楽療法を組み合わせることで、より高い治療効果が期待できる」と力説する。
一方、同病院に隣接する老人保健施設・向陽りんどう宛や特別養護老人ホーム・向陽苑(黒田庄町)にも兵庫県公認の音楽療法士が常勤している。
だが、音楽療法士が常勤で働くケースは極めて少ない。今年2月に県が認定した27人の療法士の中で常勤は4人だけ。大半は非常勤やボランティアで複数の施設を掛け持ちしながら音楽療法を続けている。
去る5月、27人のメンバーが結束して兵庫県音楽療法士会(堀早苗代表)を発足させた。同会では月1回、研究・研修会を開くとともに、音楽療法士の地位向上と啓発活動に取り組んでいる。
10月には同会の発会記念式典・特別講演会を神戸市内で開催する予定だ。
「音楽療法士が活躍するためには、社会的認知や経済的安定が不可欠」と堀代表は訴える。
音楽療法の導入を検討している施設や病院は少なくないが、新たな雇用や報酬面での負担が二の足を踏ませているという。
「施設や病院などの需要に応じて県が音楽療法士を派遣するようなシステムができれば理想的」と堀代表。
さらに、「音楽療法士を受け入れた施設や病院などを助成する制度も必要」と提案する。音楽療法士が活躍するための環境づくりへ県の積極的な支援が求められている。
−−−「公明新聞」より転載−−−
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