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2008/01/07 
次世代スーパーコンピューターで広がる科学の世界 F.S 


施設建設地がポートアイランドに決定 神戸市

“科学技術立国・日本”から技術革新の波を世界に波及していくことが期待される中、世界最高性能の次世代スーパーコンピューターを2010年までに稼働させる国家プロジェクトが注目を集めている。07年3月には、開発主体の独立行政法人・理化学研究所(理研)が、「スーパーコンピューター共用施設」の建設地を神戸市中央区のポートアイランドに決定し、同市が推進する医療産業都市構想や地域企業との連携も始まろうとしている。ここでは、スーパーコンピューターが可能にする科学技術とともに、建設地・神戸市の取り組みを紹介する。

スーパーコンピューターとは、膨大な計算を素早く行うことができる高性能コンピューターのことで、その高速計算による「シミュレーション(模擬実験)」は、実際の実験や理論上の検証と並び、科学技術の発展に必要不可欠な手法となっている。

シミュレーションは再現が困難だったり、時間がかかりすぎたりする実現不可能な実験・観測をコンピューター上で模擬的に行う実験。理研は、「人間に見ることができないものを認識できるようにすること」と説明している。例えば“物が燃える”という現象は何千分の一秒という短い時間の中で複雑な化学反応を繰り返しているが、その時間を引き延ばし検証することで、より効率的な燃焼の仕方を研究し、自動車やロケットのエンジンの改良・開発に応用することができる。逆に、地球温暖化の動向や天体の動きなど長い時間をかけて変化する現象は、時間を縮め、予測することも可能となる。

シミュレーションは、より多くの情報をより速く処理できるほど精度が上がるため、スーパーコンピューターは計算速度の高速化を求めて進歩してきた。


世界最速の計算能力で限界突破の技術革新へ
   目標の計算速度は米国製の30倍


今回、開発が進められている次世代スーパーコンピューターは、「1秒間に1京回(1兆の1万倍)の計算速度が目標」(理研)。これは、02年から04年に世界最速を誇った日本を代表するスーパーコンピューター「地球シミュレータ」の約250倍。また現在、世界一の米国製コンピューターの約30倍の速さで、世界一の性能となる見込みだ。

次世代スーパーコンピューターが完成すれば、情報量が多すぎて突き詰めることができなかった分野で、これまでの限界を突き破る科学技術の革新が期待される。特に、今回のプロジェクトでは、ライフサイエンス(生命科学)とナノテクノロジー(原子レベルでの制御技術)の発展に貢献することが大きな目標とされている。

理研によると、ライフサイエンスの分野では、人間の体全体のシミュレーションを目指すという。これは、人間を構成する分子、細胞、臓器などそれぞれの階層にまたがって総合的に人間の生命現象を捉えようとするもので、新薬の発明や医療診断などの技術革新への期待が高まっている。体中の血管と血流をシミュレーションすることで動脈硬化の発症を予測することや体質情報から個人ごとに合った薬の開発なども実現可能という。

また、ナノテクノロジーの分野では、自然科学研究機構分子科学研究所(愛知県岡崎市)が中心となり、原子一つ一つをシミュレーションし、新エネルギーの創出などを研究する。原油価格高騰の中、稲わらや建築廃材からエタノールを作るといった新技術の開発も研究の視野に入っている。

そのほかにも、新しい半導体の開発や自動車の衝突実験、原子力施設の耐震設計、台風進路や集中豪雨予測の高精度化など多彩な分野の開拓が見込まれている。

新薬、新エネルギー、半導体開発など 多彩な分野で利活用
   神戸が研究・教育の一大拠点に


こうしたスーパーコンピューターの機能を十分に発揮していくために学術機関との連携強化の必要性が叫ばれる中、甲南大学フロンティアサイエンス学部(仮称)や神戸大学などが相次いでポートアイランドへの進出を決定。神戸市は、次世代スーパーコンピューター共用施設を中心とした研究・教育の一大拠点へと発展する機運が高まっている。

一方、神戸市では1998年からポートアイランドを中心に医療産業都市構想を推進している。同構想の中核施設として基礎から臨床応用までの橋渡し研究を行う先端医療センターをはじめ、神戸バイオメディカル創造センターなどが設置されており、高度な医療技術の研究・開発拠点が整備されている。構想発表から現在までに、90社以上の再生医療の研究やがんの治療法の開発を行う企業がポートアイランドに進出。今後も、製薬会社や医療機器メーカーなどの誘致が進むことが予想されている。

 神戸市は、次世代スーパーコンピューターの活用で、医療産業都市構想のさらなる発展へ意欲を示しており、市医療産業都市構想推進室の三木孝室長は「ライフサイエンスで注目されるようになったが、今後、神戸が世界的な医療都市に発展できるかが焦点」と話している。また、地域の中小企業などの産業利用を促進するため、神戸市は昨年11月、次世代スーパーコンピューターの活用に関する技術相談の実施やシミュレーション研究の成果について周知を進める「財団法人計算科学振興財団」(仮称)の設立構想を発表。地域の「スーパーコンピューターとは何か。中小企業にまでメリットがあるのか」といった声に対応し、ニーズの掘り起こしを進めていく。

公明党の赤羽一嘉衆院議員と市議会公明党(米田和哲幹事長)は先月1日、理研の神戸研究所(中央区)を訪れ、次世代スーパーコンピューターの利活用や再生医療研究などについて、関係者から説明を受けた。

赤羽氏は、神戸商工会議所から要望を受け文部科学省と誘致に向け交渉してきた。また、市議会公明党は「地元経済への普及についても、超高性能のシステムそのものを使いこなすにしても人材の発掘・育成が急務」と訴えてきており、今後もこれらの課題の克服に全力を挙げることにしている。

赤羽氏は「知の一大拠点となるポートアイランドから発信される先端の情報や技術が、神戸の発展につながるよう尽力したい」と話していた。

−−「公明新聞」より転載−−−